2015年 「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」 和田永レポート[2/21-22]

エレクトロニコス・レポート  和田日記:2月21日

男子率が高いという滑り出しだった拠点も、時間が経つに連れて性別や年代を超えて色んな人々が集う場所になってきました。今日はトークゲストに家電蒐集家・家電考古学者の松崎順一さんがご来訪!廃家電回収と家電の魅力に関して時間びっしりに語って頂きました。

毎週、廃家電の回収に行くという松崎さん。家電達が重機によって次々と潰されていく中、それらの中から「これは!」と輝くものを見つけては救出していくそうで、それは「トレジャーハンター」であり「アドベンチャー」だと言います。そして、さながらインディージョーンズ(彼もまた考古学者)のようなウィークエンドを通して、消費社会の「最末端かつある種の最先端」を読んでいくらしいです。今まで数々の家電を蘇生させ、その生態を調べてきた松崎さんは、かつてのラジオに関して小説で言うところの「行間を読む」ではなく「局間を読む」ことの面白さを語ります。ある局と局の間にあるノイズ・・そこに何が潜んでいるかを探ることが面白いのだそうです。

思えば、僕もその「余白」の部分に魅力を感じているのかもしれません。無駄なノイズは常に削がれていくベクトルにあります。局間など無駄なものであって、局は瞬時に選択され、混線も起こらずに奇麗に受信できる、これこそが家電の進歩です。そういったことが可能になって獲得できた恩恵に囲まれて僕も生活しています。しかし、その獲得の代わりにノイズが削がれゆく今、むしろ自分にとってかつての家電の魅力はその機能性や利便性ではなく、この潜在的な「余白」の部分なのです。ノイズまみれの、物質が時間とともに劣化して変化していく自然界のプログラムとシンクロし、時に神秘的なまでの不確定な現象を生み出していく、この部分なのです!!かつての家電に宿るそれを、楽しいものに拡張していく(つくりかえていく)ことこそ、ニコスな未来なのです!!

そして、松崎さんとのコラボ作品も早速現実味を帯びてきました。トークが終わった後、来訪者の方から「松崎さんって家電界のムツゴロウだったんですね」という言葉を聞いたのですが、確かに、家電を愛するその姿、愛するが故に時々感電する(噛みつかれる)姿も含めて、家電界のインディージョーンズであり、ムツゴロウです。

この日はそんな熱い心が燃えながら、近所の築約100年の古民家に泊まることに。そしたらそこが寒かったです。着込んでホッカイロを4枚ほど身体に貼って寝たのですが、隙間風というノイズにさらされ、貴重な寒さを体験できました。

エレクトロニコス・レポート  和田日記:2月22日

遂に子ども率が最高潮に。この日の拠点はまるで保育園のようで、子ども達が次々と訪れては嵐のように遊びまくり、モノが壊れたり怪我をしないかどうか冷や冷やしました。。
そして彼ら彼女らは何故かエレクトロニコスとは全く無関係の今流行りのおもちゃを持ち込んできゃっきゃと遊び始めるため、僕はその子達を前に、まるで既存のおもちゃと対抗するように試作楽器をプレゼンしまくる謎のミッションをこなす発明お兄さんのような状態になっていました。

しかし、この子達は凄いもので。どんどんそれを楽しいものに変えていくエネルギーしかないというか、遊び方をどんどん開発していく天才というか・・圧倒されました。こちらもどんどん彼らの勘違いや発見を吸収・消化して生かしていくしかなさそうです。そもそも、ダイアルを知らない、メディアが回転することを知らない、A面B面を知らない、ということが面白く、試作も「こうやって演奏するんだよ~」と伝授すると速攻で飲み込んで自分のものにしつつ、また違った遊び方にも変えてしまう。恐るべし。。
これは自分が幼少の頃にインドネシアでガムラン音楽を体験をしてそれが強烈にトラウマのように残っているように、彼ら彼女らにとって何かトラウマのような原体験として脳裏に残るような音楽博覧会(祭典)をつくっていくしかないな、という想いに駆られています。

そして、試作の電輪塔からは何とも奇怪で愉快な音が出始めています。特定の周波数に電波を出すのではなく、いわゆる電磁気的なノイズとして信号を発生させることで、チューニング・ダイヤルの位置やラジオの違いによって様々な音色のリズムが生み出されることがわかってきました。こうした電輪塔が何本も蟹の足のように土から生え、ラジオを持って近づいたり遠ざかったりすることで空間でミックスしていく巨大なリズム・マシンが現実味を帯びてきています。
奇しくも、この音は何故か「水から出る泡」や「鳥のさえずり」「芽吹きの音」に似た有機的な響きを発しています。この音を聞いて、即興的に踊り出した子ども達のダンスが、またなかなか良かったです。

来訪者が残していくスケッチもこの1週間でどっと増え、貼り場を失い、天井にまで伸びてきています。中にはなるほどと思えるものも。もし野外で博覧会を開く場合、電力不足を補うために、人力で回転によって発電し、その電気を楽器に供給していく「クラフトワークマンズ(発電人間達)」が必要なのではないか、という指摘。ツナギを着てヘルメットにボルトのマークがあるらしいです。そして彼らのエネルギー源として火でお米を炊くブースも必要なのではないか。「火や水→米→人→回転→電気→家電」というリレー。確かに、必要かもしれません。探求は続きます。

つづく!!

―和田 永―

撮影:高島圭史・和田永

  • 和田 永

    1987年生まれ。物心ついた頃に、ブラウン管テレビが埋め込まれた巨大な蟹の足の塔がそびえ立っている場所で、音楽の祭典が待っていると確信する。しかしある時、地球にはそんな場所はないと友人に教えられ、自分でつくるしかないと今に至る。大学在籍中よりアーティスト/ミュージシャンとして音楽と美術の間の領域で活動を開始。2009年より年代物のオープンリール式テープレコーダーを演奏するグループ『Open Reel Ensemble』を結成し活動を続ける。Ars ElectronicaやSónarを始め、各国でライブや展示を展開。ISSEY MIYAKEのパリコレクションでは、これまでに11回に渡って音楽に携わった。2015年より役割を終えた電化製品を新たな電子楽器として蘇生させ、合奏する祭典を目指すプロジェクト『ELECTRONICOS FANTASTICOS! (エレクトロニコス・ファンタスティコス!)』を始動させて取り組む。その成果により、第68回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。そんな場所はないと教えてくれた友人に偶然再会、まだそんなことやってるのかと驚嘆される。