~音楽が子どもの中に渦を巻く~ ほくさい音楽博 レポート

文:臼井隆志(ワークショップ・プランナー)

1月19日(土)にプレトークに参加した「ほくさい音楽博」。その本番が2月19日(日)に開催されました。練習をしていた子どもたちは、いったいどんな演奏を見せてくれるのだろう。そしてその演奏はどんな観客に見守られているのだろう、と楽しみな思いで会場となる両国の回向院に歩をすすめます。

駅から程近くの回向院の入り口に「ほくさい音楽博」ののぼりが立っていて、その奥にはずらりと自転車が並んでいます。そのさらに奥にある本堂のほうには、人の賑わいが見えてきます。

回向院のなかの会場は5つ。本堂は観客が自ら手を動かして楽器に触れることができる体験がいっぱい。1階ではウクレレ演奏会と体験会、2階では楽器作り、家紋作り、新聞記者、ノート作りといった工作ができ、和室ではスティールパン体験もできる。そしてメインとなる念仏堂1階では義太夫、スティールパン、ウクレレの発表があり、2階では作詞体験と義太夫ライブ。外ではバテリアの衣装を着て撮影するだけじゃなく、両国の街をパレードするというイベントもあり、盛りだくさんな内容です。こうした会場を子どもたちはスタンプラリーをしてめぐることで、13時から17時までたっぷり音楽体験をして遊ぶことがで

◎義太夫 文化のるつぼ

ぼくが行った時はちょうどオープニングの義太夫の発表が行われるところで、会場に向かうともう超満員で後方からでは子どもたちの顔が見えないほど。それでもぐぐっと近寄ってみると、子どもたちが口上で太夫としての自分たちの名前を語るのに合わせて、観客が「待ってました!」「いよ!」「たっぷりー!!」と口々に声をかけていきます。子どもの親御さん世代だけじゃなく、近所から来たであろうご年配の方や、3~4歳の子をつれた若い夫婦など、様々な人がこうした合いの手を入れるのを見て「ああ、江戸文化のるつぼが今こんなふうに息を吹き返しているんだなぁ」と思いました。客席にいた発表者の友達の子たちは、なんだかわからない熱気に飲まれて、驚いていたと思います。その光景を見てぼくも驚きました。

「義太夫」ってそんなにポップなものではないし、語られる内容も昔の言葉でわかりやすいとは言い難いと思います。でも子どもたちが声を張り、源義経の物語を語り、それを聞く大人たちがはしゃぐ姿を見て、なんだかわからない世界にスリップしてしまったような妙な感覚になります。

◎ウクレレ 子どもの歌を聴く情景

本堂の1階では、ウクレレのミニライブが行われています。ハットをかぶった出演者の子どもたちとその家族、一般の観客でこちらも大賑わいです。youtuberの久保田GAZZ誠さんのGAZZLELEで学んだ子たちとその家族も出演。人前で自ら演奏して歌うなんて、自分が子どもの頃ならとてもじゃないけどできなかったでしょう。この子たちは緊張しながらも、同じウクレレ仲間や地域の人たちに見守られて、歌い上げています。もともとウクレレは大音量で聞くようなものではないし、緊張した子どもの声なのでささやかで、耳を澄ましながら観客が歌を聴く情景は見たことのない感じでした。

幼稚園年長の女の子が1人で歌う『上を向いて歩こう』を聞きながら、通りすがりのおばあちゃんが澄んだ声で一緒に口ずさんでいたり、ウクレレを始めて3ヶ月の4年生の女の子二人組がgreenの『キセキ』を歌っていて、ぼくは自分の結婚パーティーでこの曲を聴いてボロ泣きした思い出がよみがえって勝手に目頭が熱くなったり、子どもの弾き語りにはノスタルジックな切なさと可愛らしさが相まった魔力があります。個々人が音楽に投影している人生の思い出の断片を、子どもたちが歌っている、というのはいいものだなあと感じます。

最後の念仏堂でのライブでは、高学年と低学年の子達が、澄んだ声を念仏堂に響かせていて、清々しい気持ちになりました。

◎音楽のエッセンス 聴く、触れる、奏でる循環

そのあと、念仏堂の2階で、志人さんの創作詩のワークショップの見学をしました。志人さんは以前スガダイロートリオとのライブを観に行ったことがあり、ぼくも大好きなアーティストです。志人さんは子どもたちに向かって「物や動物の気持ちになりかわって言葉をつむぐと詩が生まれる」というコンセプトを、子どもたちに伝わるように言葉を選び、抑揚をつけて語っていて、その語りかけ自体がまるで詩の朗読のようでした。

「”やり”のつく言葉って何がある?」と投げかけて「投げやり」「思いやり」といった言葉が子どもたちから返ってきたのをうけて「やり、ぽーい、なげやり、このやり、重い、やりってことじゃなく、思いやり。そう、物へも思いやりをしてみると、そこから詩が生まれる」というようなこと(記憶が定かじゃないので間違っていたらすみません)を返していて、ああすげぇな~即興で言葉遊びしながら子どもたちに語ってる!とシビれます。

冒頭で志人さんが「円都家族(Yen Town Family)」という詩を歌ってみせているとき、子どもたちはそのパフォーマンスにすっかり聞き入っていました。スタンプラリー巡りをしている子どもたちが、この語りに魅入って、最後には短い1行の詩を紙に書き付けはじめるのです。「なにゆえのあいうえお」と題された子どもたちに配られた志人さん手作りのテキスト、いったい何が書かれていたのでしょう。是非読んでみたかった…。

後半の義太夫の体験会では、60人ほどの観客たちが声をそろえて義太夫の語りをやってみます。娘役の声を高く保ちながら、なるべく平坦な声を出すことで幼さを出すことや、驚きや混乱を表すために前のめりで駆け抜けるように語ることなど、テクニックを教わりながら実践してみることで、その後のパフォーマンスをより面白く聴くことができます。

こんな風にこの念仏堂の2階では、アーティストの本気のパフォーマンスと、参加者の体験が交差し、「聴くこと」「触れること」「奏でること」がぐるぐる循環する場になっていて、アーティストへの親近感と尊敬が増幅する場所になっていました。スタンプラリーのために15分で体験を消費するようなものではなく、1時間という短い時間ではあるが、じっくりと演奏に向き合うことができるうえに、これらの体験は、子どもたちがこれから様々な鑑賞体験をするうえで理解の補助線となることでしょう。

◎スティールパン もし自分が舞台に立つとしたら

創作詩のワークショップのあと、念仏堂1階の前ではスティールパンのリハーサルが公開で行われています。子どもたちがパンをたたく軽やかな音が響くと、自ずと人が集まってきます。もうリハーサルの段階から演奏が始まっているかのようです。演奏の時間までそろいのTシャツで、その場で待機する子どもたち。さむいさむいとその場で足踏みをする子どもたちの間を、原田芳宏さんが駆け巡り、子どもたちの背中をニコニコとさする。その前にスティールパン体験に参加してきたであろう子どもたちが観客となり、パフォーマーのまわりを取り囲んでいます。
いざ演奏が始まると、3ヶ月間繰り返し練習してきた曲が演奏されます。途中ハーモニーが崩れそうなことがあっても、みんなが周りの演奏に耳をすませ、リズムを合わせ、ハーモニーが戻ってくる。観客の子どもたちは、にらみつけるように真剣に演奏を聴いていました。さっき体験した楽器を目の前にいる同世代の友達が合奏しているのを見ながら「もし自分が舞台に立っていたらどう演奏しているか」をシミュレーションしているように見えました。そういえば、ぼくも子どものころ友だちの演劇の発表を見てそんなことを思ったことがあったような気がします

その後、原田さん率いるパノラマ・スティール・オーケストラが一曲だけ演奏をしてくれました。少人数体制でありながらもちろん彼らの演奏は大迫力で、会場もノリノリです。さっきまで聞くことに没入していた子どもたちも、今度はグルーブに乗って笑いながら楽しんでいます。ワークショップで手作りした楽器を鳴らす子達もいて、ハッピーな雰囲気全開で最高です。

◎おわりに

ほかにも、ワークショップの様子や、相撲甚句、バリテアのパレードなど、最高な要素が盛りだくさんだったのですが、およそここには書ききれないので、ほかに機会を譲ろうと思います。

ともかく、この「ほくさい音楽博」は子どもにとっても大人にとっても音楽が自分のものになっていくフェスだと思いました。耳に残る義太夫の声、弾けそうなウクレレ、スティールパンのグルーブが、3週間ちかく経ったいまもカラダの中をぐるぐるしています。きっと子どもたちにとってもそうなのでしょう。

運営の人から聞いた話ですが、想像以上の来客だったようで、回向院はまさに満員で祭りのにぎわいという感じでした。清宮さんはじめ運営の方々が、この両国の街が地元で、暮らしのなかでこのプロジェクトを運営されているというのが素敵です。音楽を生業にしているプロデューサーたちが「地元でもなんかやろうよ!」というお酒の席での話から、ここまで意義深いプロジェクトを立ち上げていることに尊敬の念を隠せません。ぜひどうかこの素敵なスケール感で、末長く続いてほしいです。

  • 臼井 隆志(ワークショップ・プランナー)

    1987年東京都生まれ。2008年より、児童館をアーティストの作業場として活用するプログラム「アーティスト・イン・児童館」の企画・運営を実施。2011年より、ファッションブランド「FORM ON WORDS」のメンバーとしてファッションショーの企画制作などに携わる。2015年より伊勢丹新宿店が手がける学び場「cocoiku」にて乳幼児親子向けの知育教室の企画・運営を担当している。