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2018年2月 BLOOMING EAST 勉強会「OUR MUSIC」
第1回 「音になってみる」レポート

BLOOMING EAST「勉強会」とは

私たちは様々なかたちで日々音楽に触れています。そんな普段何気なく耳にする音や音楽が、ふとした場所で聴こえてきたときに風が抜けるような心地よさを感じたことはありませんか?

「音楽」には、そんなふうに空間そのものの温度や、その場に居合わせた人々の体温がほんのりと上がってしまうような力があるような気がします。

BLOOMING EAST勉強会「OUR MUSIC」では、そんな「音楽」や「音」がもってる本来の響きと「公共」との関係について、丁寧に考えを巡らせていきます。そもそも、音と音楽の違いってなんだろうとか、耳に残る音楽や聞き流してしまう音の差異や区別はどうやって生まれるのかとか、そんな根っこのことを考える勉強会です。(詳しい開催日程などは関連イベントをご覧ください。)

第1回 「音になってみる」

●イントロダクション

まずは、「BLOOMING EAST」発起人、トッピングイースト理事長の清宮陵一さんから本勉強会の目的についての話がありました。最終的に音や音楽を街の中にインストール・実装していくことを目標に、勉強会で音や音楽に関するそもそもの考え方について勉強し意見を出し合うことで、その実現のための最初のステップを踏んでいきます。

●仮説 音と音楽の違いは?

まず、メンバーそれぞれが「音と音楽の違い」について今の時点で思うことを紙に書いていきます。この時点ではまだ発表はせず、この勉強会の最後に、それがどのように変わったか/変わらなかったかを含めて発表がおこなわれます。

●耳と音の認知

まずは基礎知識として、耳が音を認知する仕組みや、耳の周波数の可聴領域に関して、ビデオを見ながら確認しました。そこから派生して、CDなどのメディアにおいて特定の周波数の音が削ぎ落とされている話などもおこなわれました。

●ジョン・ケージ

実験音楽の作曲家、ジョン・ケージによるテキスト「音楽の未来…クレド」を読み、音と音楽の違いについてのケージの考え方を確認しました。ケージは、音は常にすでに存在しているという思想のもと、その音をそのままの状態で聴くような実践を推進しており、対照的に従来的な「音楽」は音を人為的に組織化した表現であるとし、批判しています。

●サウンドスケープ

次に、カナダの作曲家マリー・シェーファーによるサウンドスケープの思想を、その著作『世界の調律』をもとに確認しました。シェーファーによると、音の風景は近代化にともなって明瞭な「ハイファイ」から不明瞭な「ローファイ」へと移行しており、それによって失われた音の美的な質を改善するための「サウンドスケープ・デザイン」が求められているとのこと。この思想をもとに、それは誰にとっての音か、音が個人/集団の記憶の原風景と相まってどのように傾聴されるか、という主観/客観の間での音の切り取り方の問題について、議論が深まりました。

●ガムランアンサンブル

次に、インドネシアの伝統楽器群「ガムラン」を使って、メンバーで2グループに分かれて即興アンサンブルをしてみることに。他人と合わせようとすること/しないこと、誰がアンサンブルの基礎となり誰がその上で遊ぶかというやりとりや、それらの間での揺らぎについて、前述の音の切り取り方に関する話と共鳴しながら議論がおこなわれました。

●仮説検証

最後に、武満徹のテキストを読みながら、初めに挙げた仮説の検証をそれぞれがおこない、その発表をしました。仮説やその変化はメンバーによってさまざまでしたが、音と音楽のあいだについての議論をとおして、主観と客観のあいだ、人と物のあいだ、能動と受動のあいだなどについて、それぞれの中で新たな揺らぎが生まれてきたようでした。

  • 石橋 鼓太郎(BLOOMING EAST プロジェクトメンバー)

    東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科修士課程。専門はアートマネジメント。多様な人々が参加する音楽の場おける相互行為の様態に興味を持ち、研究・企画運営・演奏を横断しながらさまざまな実践を続けている。2012年度より、足立区千住地域を中心に展開するアートプロジェクト「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」の一企画「野村誠 千住だじゃれ音楽祭」の運営を担当している。2016年アカンサス音楽賞受賞。