2017年2月 ほくさい音楽博プレトークイベント 「この街の音楽の未来を語ろう」 レポート

文:臼井隆志(ワークショップ・プランナー)

2017年1月21日(土)、すみだ北斎美術館にて「ほくさい音楽博プレトークイベント『この街の音楽の未来を語ろう』」が開催されました。

「ほくさい音楽博」は、子どもたちが世界各国の多様な音楽にふれ、練習し、自らステージに立って演奏する半年ほどのプロジェクトです。子どもと音楽というとピアノやリコーダーを思い浮かべますが、ここでは地球の裏側トリニダート・トバゴで生まれた「スティールパン」や、ハワイで発展した「ウクレレ」、そして江戸時代から続く物語の技法「義太夫節」といった、多様な音楽への入り口が開かれています。2月19日(日)の本番も、誰でも参加できる楽器体験会や創作ワークショップなどがあり、音楽に聴き、触れ、奏でることができるプログラムとなっているようです。

今回のトークイベントの目的はこの取り組みの魅力をより多くの人に知ってもらうこと。私は司会進行役として参加させていただきました。音楽のプロである方々がどんな思いで子どもたちと関わっているのか、そもそもなぜその表現活動をすることになったのか、そんなお話を聞くところから始まりました。

義太夫 -それぞれの「声」

(左:竹本京之助さん、右:鶴澤弥々さん)

鶴澤弥々さん(義太夫・三味線)は、大学で日本文学を学ぶなかで義太夫という文化を見つけ、趣味として義太夫教室に通い始めました。教室に通ううち、もっと続けたいという思いが芽生え、竹本弥乃太夫さんに弟子入りし、プロの道を歩むことになりました。

竹本京之助さん(義太夫・太夫(語り部のこと))は舞台女優としてお仕事をされていて、所属していた劇団が活動を休止することになり、その間にボイストレーニングとして義太夫を始めました。竹本駒之助師匠の稽古に通ううち、ちょっと出演してみないかと声がかかるようになり、女優と義太夫の二足のわらじではなく、本腰を入れて義太夫を始めます。

(義太夫の練習風景)

「ほくさい音楽博」では、子どもたちは物語の語り手である「太夫」の役をします。通常の話し声でもなければ、学校で習う歌とも異なる「声」のあり方があります。子どもたちのソプラノが太夫となったとき、なんとも面白い抑揚の声ができあがっていきます。京之助さん・弥々さんは、どんな子にも義太夫の世界で活きてくるその子なりの「声」があるといいます。

「伝統文化だから」ということを笠に着ることもなく、「義太夫、面白くない?私たち、ほんっとに面白いと思ってるんだよね!」という座布団に汗が移るほどの気合いで子どもたちと関わり合う京之助さん・弥々さんの噓いつわりのない真剣さは、子どもたちに伝わっていることでしょう。

ウクレレ -取り戻す「音楽欲」

(久保田”ガズ”誠さん)

久保田”ガズ”誠さんは、国際的に活躍するパンクロックバンドのギターボーカルでありながら、現在はウクレレ講師のYouTuberとして大人気です。「もともと人には食欲と同じように『音楽欲』がある」というのはガズさんの考え方ですが、ご自身が白血病になり、その闘病生活のなかで頭の中で音楽をしまくっていた経験から、ガズさんはこの「音楽欲」を満たすことが生きる力になり、人を救うということに気づいたそうです。復帰後、知人にウクレレを教えはじめたことをきっかけに、小さくてシンプルなウクレレをツールに人々が「音楽欲」を取り戻していくと考え、ウクレレ講座を始められています。

(ウクレレの練習風景)

そんなガズさんが関わるのは、低学年チームと高学年チーム。ガズさんと一緒にウクレレを奏でながら歌う子どもたちの声が、伸びやかで心地よいのです。思春期にさしかかった高学年チームは、いざやってみるとなかなか恥ずかしくて声が出にくい子もいるようです。そんな子達にガズさんは「君の歌を誰も聞いてないと思ってみなよ」「自分に聞かせてごらん」と言葉をかけるそうです。

義太夫チームもそうですが、声を出す、歌う、人の矢面に立つという経験は、子どもには酷なことなのかもしれません。その困難に向かう勇気を、ガズさんのまっすぐな姿勢が後押ししていくのでしょう。この経験はのちの人生にも必ず子どもたちを励まし続けることと思います。

スティールパン -ハーモニーの「乗り物」

(原田芳宏さん)

スティールパン・バンドを率いる原田芳宏さんからは、物心ついたころから頭の中に音楽が鳴り響き、親の目を盗んでキッチンから鍋やフライパンをとりだして演奏をしていたことを話していただきました。そんな原田さんは幼少期から様々な楽器に触れており、22歳にニューヨークを旅した時、スティールパンという楽器に出会い、そこからのめり込み、その本場トリニダード・トバゴに渡って異文化とともにスティールパンのことを学んだそうです。

原田さんと「ほくさい音楽博」はゆかりが深く、2010年の最初に「ほくさい音楽博」を主催する清宮陵一さんが惚れ込んで声をかけ、清宮さんの地元である両国でコンサートを開いたことが「ほくさい音楽博」の始まりでした。2011年の震災を経たのちも清宮さんたちはこの地元での音楽活動の縁をつくりつづけ、2012年以降から子どもたちが参加するスタイルになってからも、原田さんは関わり続けており、この街の音楽に欠かせない存在になっているようです。

(スティールパンの練習風景)

私もこのトークの一週間前に原田さんと子どもたちの練習を見学させていただきました。演奏をする子どもたちの様子をしっかりと観察しながら、柔和な原田さんの目が鋭くなる瞬間が何度かありました。子どもたち個々人に合わせて楽譜をその場でどんどん書き換えていきます。最初は講師メンバーが演奏して見せ、子どもたちが少しずつ真似し、次第に子どもたちだけで演奏をしていくということを何度も繰り返していきます。その様子はまるで自転車の練習中に親が押していたはずが気づかないうちにひとりで漕ぎ出している子どもを見るようでした。こうした練習方法について原田さんに伺うと「やってみせてしまうことで、子どもたちは直観してくれる。大人の理屈で誤魔化して説明しても意味がない」とおっしゃっていました。

大人たちがいかに本気であるか。子どもたち相手だからといって手を抜くつもりも、「教える」ということで上から目線で関わるつもりもなく、子どもたちひとりひとりを他のジャンルの表現者であるようにとらえ、異種格闘技戦に臨むような気迫を感じます。

すみだトリフォニーホール、児童館 -開かれた聴く場所、触れる場所

シンポジウム後半では、さらにゲストをお招きし、議論を「ほくさい音楽博」から「地域の文化をどうつくるか?」という方へと広げていきました。

(上野喜浩さん)

上野喜浩さんは、新日本フィルハーモニー交響楽団をかかえるすみだトリフォニーホールでコンサートの企画から教育普及(幅広い人たちに気軽に音楽を楽しんでもらう活動)まで実践されている方です。定期的に行われる「ジュニア演奏会」を通して、墨田区に住む子どもたちは幼い頃から楽団に触れる機会を持っています。また「静かにしなきゃいけない」というルールを外し、乳幼児や障害者の方も招待した「誰でもコンサート」も開催されています。墨田区と楽団が提携を結んでいることは、墨田区がプロ野球のチームやサッカー球団をもっているような感覚に近い、というお話をうかがい、この街の子ども達はそうして音楽に馴染んでいくのだということがよくわかりました。

(相澤佐和子さん)

墨田区の本所吾妻橋の近くにある外手児童館の館長を務める相澤佐和子さんは、0~18歳の健全育成を支援するという目的にむけて、6つの学童保育施設と児童館との連携をとって運営しています。危機管理意識の高まりと地域コミュニティの希薄化から時間・仲間・隙間がなくなり都市の遊びが貧しくなっているということは数十年前から言われ続けています。そのために子どもたちが不完全感・不安感をもったまま大人になっていくことに相澤さんは危機感を持たれていました。そんな現代における自由な遊びをどうやって生み出していくかが児童館としての課題であるとおっしゃっていました。

相澤さんにお話いただいたエピソードで印象的だったのは、いつも元気でちょっと周りを困らせてしまう子どもが、児童館のなかにあった古いバイオリンに触れ、音が出たときに目を輝かせていたということ。既成の玩具や子ども向けの遊びだけでなく、大人が使っているものに触れることのなかに、大人になったときにも残り続ける何かが記憶されるのかもしれません。

(ディスカッションの様子)

後半のディスカッションでは、子ども達はパフォーマーであるべきだ、という主張もあれば、観客としての体験も重要だという主張が交わり、エキサイトしていきます。また「もっと子どもたち個々人にフォーカスしたプログラムにしたらどうか」「YouTubeで過去の音楽にも好きなだけアクセスできる現代の子どもたちがどんな音楽を聴いているか、ヒアリングしながら進めたらどうか」といったガズさんからのアイデアを下地に議論が活発になり、話し足りないほどヒートアップしたところで時間を迎えました。

聴く、触れる、奏でる -「乗り物」としての音楽

(2/19(日)ほくさい音楽博 チラシ)

これは私個人の感想ですが、トリフォニーホールのようなプロの演奏をとっぷりと”聴く”ための場所と、児童館のような遊びのなかで”触れる”場所と、「ほくさい音楽博」のように様々なプロフェッショナルと共に”奏でる”場所がつながっていくことを、これからの「この街の音楽」に期待したいなと思いました。

聴くことと触れることの間には「ステージ/客席」「プロフェッショナル/素人」といった壁があります。それは音楽というスペクタクルへの感動や畏怖のために必要な壁でもありますが、ときにそれがふと児童館のような身近な場に現れるような機会があってもいいのかなと。そして触れることと奏でることの間には、私自身もそうなのですが「ハーモニー」「リズム」を生み出すことへの知識と経験の不足と、ためらいや恥ずかしさがあります。原田さん、ガズさん、京之助さん、弥々さんのようなプロフェッショナルの演奏はそれらを無いものにしてしまうほどの吸引力と包容力をもったグルーヴを生み出します。「乗り物」にのるかのごとく、子ども達もそのグルーヴに乗っかって、ハーモニーやリズムをいつのまにか自分のものにしてしまうでしょう。

当日の「ほくさい音楽博」は、きっとそんな「乗り物」になっているはずです。ぼくも足を運ぶのを楽しみにしています。

  • 臼井 隆志(ワークショップ・プランナー)

    1987年東京都生まれ。2008年より、児童館をアーティストの作業場として活用するプログラム「アーティスト・イン・児童館」の企画・運営を実施。2011年より、ファッションブランド「FORM ON WORDS」のメンバーとしてファッションショーの企画制作などに携わる。2015年より伊勢丹新宿店が手がける学び場「cocoiku」にて乳幼児親子向けの知育教室の企画・運営を担当している。