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隅田川道中 練り歩き「道中」プログラム 実施レポート

文:清宮陵一
撮影:鈴木竜一朗(■)
高田洋三(□)

2022年10月29、30日に開催した「隅田川道中」。切腹ピストルズが隅田川全長23.5kmを2日間かけて演奏しながら練り歩いたその記録を、写真とともに振り返ります。

“舞台は隅田川全長23.5km!誰も見た事のない景色を一緒に作りたい”と題してREADYFORにてクラウドファンディングを実施。184名の支援者に支えられてこのプログラムが実施できたことに、まずは改めて御礼をお伝えさせて下さい。

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10月29日午前10時、岩淵水門前、快晴。今年で40周年を迎える水門も、隅田川の水面も空も、全てが真っ青。最高の滑り出しです。

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隅田川全体が劇場、岩淵水門が最初の舞台。背景幕である青水門が切腹ピストルズの演奏に合わせて徐々に下降していき、大規模舞台装置としての役割を果たしてくれました。さあ、開幕。いざ遥か彼方に霞むスカイツリーを目印に、南下を開始していきます。

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「この祭りは果たして受け入れられるのだろうか?」
尋常ならざる太鼓の音、いや音塊とでもいうべき振動が、水面を滑って対岸までゆうに届いています。橋の上から手を振るご婦人。呼応するかのように飛び跳ねる子ども。たまたま出くわした近所の人々、近所の鳥たち、どう?楽しんでくれていますか?

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新田さくら公園で一呼吸整え、新豊橋を渡ると釣りをしているおじさんがありえないほど大きな鯉を釣り上げました。これ以上縁起がいいことってあるでしょうか! 
隅田川両岸の団地とマンションに音が跳ね返り、テラスはさながらアリーナクラスのコンサートホールのように。午前中からお騒がせします。その爆音にうながされ、隊列に沿うようにだんだんとついてくる人が増えてきます。

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豊島団地は東京で2番目に大きな北区のマンモス団地。コロナ禍以来初めてとなるお祭り「豊島五丁目団地わくわく祭り」と「隅田川道中」とが日を合わせ、切腹ピストルズがステージでの演奏をドドンと繰り広げました。
最初は「なんだか怖そう(心の声がなんとなく聞こえてくる…)」と距離をとって様子を伺う団地のみなさん。時間が経つと、少しずつ距離が近くなって、最後は万雷の拍手に。ずっとノリノリで手拍子していたおばあちゃんは「小さい頃のお祭りを思い出して、こんなことが起きるとは思わなかった」と話してくれました。

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豊島団地から、テラスのない区間を屋形船でワープ。切腹ピストルズ応援船もピッタリ並走します。このあたりでは珍しい2隻の船のランデブー。どうして船と陸とで手を振りあいたくなるんですかね。

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2022年に完成したばかりの宮前公園で、初めて開催されるマルシェ「宮前ソラのマルシェ」とも連携しています。切腹ピストルズの屋形船が通る時間に合わせて、マルシェに参加するお店の方も来場者も、テラスに大集結!
屋形船のデッキを舞台に演奏を繰り広げる切腹ピストルズをテラスから応援する、たくさんの人人人。疫病退散を願う心のこもった演奏に、対岸からの拍手が鳴り止みません。

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初日、後半にさしかかり疲労が溜まっていく時間でも、演奏はさらに熱気を帯びていきます。千住大橋で待ち構えていた「千住だじゃれ音楽祭」チームにも、切腹ピストルズ応援船&「言葉の川を旅する」ワークショップ船に向けても、道すがら出会ったひとりの子どもに対しても、分け隔てなく渾身の音色を届けます。

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雄叫びを上げながら、地鳴りのような太鼓の重低音を轟かせ続けて7時間が経過しました。気づけば数え切れぬ人々が隊列の横に後ろに、連なっています。
「この祭りは果たして受け入れられるのだろうか?」という不安は、杞憂にすぎませんでした。今日テラスで出会ったたくさんのマスク越しの笑顔、遠くのベランダから大きく手を振るあらゆる世代のご近所さんなどなどを思い返しながら、夕暮れ時に心地良い風の吹き抜ける汐入公園で、初日の「道中」が終了しました。

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10月30日午前8時。源頼朝が創建したものと伝えられる水神様「隅田川神社」へのお参りから2日目がスタート。9時、「胡録和太鼓」による送り出しを受けて、今日は終着点の勝鬨橋まで、昨日より2時間長い9時間をかけて練り歩きます。薄く雲がかかって幾分か過ごしやすいものの、己と向き合い仲間と音を重ね合わせ続ける彼らの長い旅の始まりです。

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荒川区側から白鬚橋を渡って墨田区側へ。日曜日の朝とあって散歩する人やジョギングする人と度々すれ違います。台東区と墨田区を繋ぐ人道橋・桜橋の三角に分かれたたもとは、さながら2階構造の劇場のよう。グランドレベルでは、昨日に引き続いて切腹ピストルズ応援船がかぶりつきの特等席で、揺られながら演奏を愉しんでいます。
さらに言問橋あたりまでくれば、どこで演奏をしてもあっという間に人だかりに。「姿が見える前にズンズンと遠くから音が聞こえてきて、めちゃワクワクしました!」と声をかけてくださる方々。その振動は想像のはるか上をいっているようです。

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ここで本日のハイライト。
東武鉄道の鉄橋横に架かる人道橋「すみだリバーウォーク」を舞台に、たっぷり2曲お届けします。両岸のテラスも、川をゆく遊覧船も、真っ赤な吾妻橋も、見える範囲全てが客席。さながら“橋の上音楽祭”の上演です。
そう、ちなみに、今回の練り歩きの現場制作を担当してくれているのが本家・愛知県豊田市で行われている「橋の下世界音楽祭」の現場チーム。この大胆であり緻密なプロジェクトを大成功させるために、声をかけさせてもらいました。

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「すみだリバーウォーク」での、行き交う東武電車を舞台美術にしたド迫力パフォーマンスから昼食を挟んで、隊列はさらに進路を南にとります。浅草寺本尊・観世音菩薩が上陸された駒形堂横の駒形橋を渡り両国方面へ。
両国リバーセンターでは喫茶ランドリー主催のフリーマーケットが開催されています。また、障がいのある方にも練り歩きを楽しんでもらいたいと実施したアクセシビリティプログラムにもチャレンジしました。
さらには、アーティストのコムアイさんをファシリテーターに迎えた遊覧体験「ひと雫の私であり続けるために」が同時開催されています。屋形船は隊列を追い越し、東京湾まで繰り出していきました。

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両国橋を中央区側へ渡ってしばらくすると、カミソリ堤防の近くに既に人だかりが。浜町船着場付近では、レコードコンビニとコアキナイが「堤防DJフェス」という初めての試みをタッグを組んで行なっています。切腹ピストルズの賑やかしに、DJ岸野雄一さんが即座にサムルノリで反応。日韓の祭りの音色が、堤防という壁を挟みながらも音として混じり合っていく美しい光景が繰り広げられました。

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ゆっくりと日が傾いてきました。
新大橋を江東区側へ渡り永代橋の手前まで来ると、深川の有志による「Deep River Market」が多彩なお店をひろげています。するとそこにはなんと、聖獣バロンが待ち構えていました!切腹ピストルズとバリガムランチーム「深川バロン倶楽部」突然の邂逅。バロンの送り出しを受けて隊は永代橋を渡り、いよいよラストラン。

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勝鬨橋に着く頃には完全に日が暮れていました。暗がりの隊列には、もはや何人ついてきているのか把握できません。2日間23.5km、16時間をかけて辿り着いた終着点には”野生の群集”が立ち現れていました。コロナ禍で押さえ込まなければならなかった衝動。今でも祭りは十全に催されているわけではなく、そもそも再開されていないものも多く、未だ長らく野生や衝動から隔絶された世界を生きています。
それをほんの少しでも取り戻すことができないだろうか。
そんな想いで取り組んだこの「隅田川道中」が、通りすがりに出くわした方にも振動を通じて衝動を呼び覚ます機会となっていたら、嬉しいです。

 
最後に。
一緒にこの「隅田川道中」をつくってくれた運営メンバーと「河岸」参加団体の皆様なくしてはこの祭りは実現できませんでした。本当にありがとうございました。
そして、このとてつもない取り組み、誰も見たことのない景色を形にしてくださった切腹ピストルズに心からの御礼を伝えさせてください。

みなさま
またいつか、隅田川でお会いしましょう。

◆ 開催概要 ◆

●日時|2022年10月29日(土)10:00〜17:30、10月30日(日)9:00〜18:00
●会場|隅田川全長23.5km (MAP)
●主催|NPO法人トッピングイースト
●後援|関東地方整備局荒川下流河川事務所、東京都建設局河川部、中央区、台東区、墨田区、 江東区、北区、荒川区、足立区、公益財団法人東京都公園協会、一般社団法人東京北区観光協会
●認定|すみゆめネットワーク企画
●助成|すみだ文化芸術活動助成
●広報協力|RAC(NPO法人川に学ぶ体験活動協議会)
●出演|切腹ピストルズ

■出演アーティスト

切腹ピストルズ/せっぷくぴすとるず、又の名を江戸一番隊

全国に隊員二十数名、鉦・三味線・笛・太鼓での神出鬼没の路上演奏を得意とし、町・村おこし、祭、ライブハウス、フェス、デモ、神社仏閣奉納演奏、小学校から介護施設まで、あらゆる場所に現る。地方探索・民俗の研究、農、工商(雪駄・がまぐち・野良着・大工・意匠)、寺子屋、寄席、尺八指導など、隊員各々が展開。人呼んで「江戸時代へ導く装置」、自称「ニホンオオカミの残党」。愛用の袢纏は新潟小千谷片貝の老舗・紺仁製。大紋は丸一。判じ絵は矢鎌志(やかまし)。出囃子は「一丁入り」。
2018年のNYタイムズスクエア、2022年のドバイ万博、シカゴ公演での演奏も話題となった。また近年の豊田利晃監督の映画音楽の提供は好評を得ている。